本人は会社を恨んでいなかった。それでも社長は訴えられた。
2026.11.04
「労災保険に入っているから大丈夫ですよね?」
経営者の方から時々そんな言葉を聞きます。
確かに労災保険は大切な制度です。
ですが私は、保険代理店として様々な事故に関わる中で、
労災事故の本当の怖さは、事故その日ではない
と思っています。
本当に大変なのは、その後です。
今回は実際にあったお話をご紹介します。
将来を期待されていた若手社員
ある製造業での事故です。
高卒で入社した若い社員さんが、仕事中に大きなケガを負いました。
幸い命は助かりました。
しかし後遺症が残りました。
さらに事故のショックからPTSDを発症し、現場に立つこと自体が難しくなってしまいました。
その仕事が好きだったそうです。
一生懸命覚えた仕事でした。
将来もこの会社で頑張りたいと思っていたそうです。
それでも、最終的には退職せざるを得ませんでした。
社長も会社も精一杯対応していた
この話をすると、
「会社に問題があったんでしょう」
と思われる方もいるかもしれません。
しかし実際は違いました。
社長も会社も事故後にできる限りの対応をしていました。
補償も行いました。
本人とも真剣に向き合いました。
そして何より、
本人は会社や社長を恨んでいませんでした。
それでも訴訟になった
ところが、ご両親の考えは別でした。
親として見れば、
「息子の人生が変わってしまった」
のです。
高校を卒業したばかりの若者が、好きだった仕事を失ってしまった。
そう考えれば当然の感情かもしれません。
その結果、会社に対する賠償請求の話になりました。
そして最終的には、
会社だけでなく経営者個人も訴えられる訴訟
へ発展しました。
解決まで5年
事故は一日です。
しかし、その社長は事故の日を忘れることができませんでした。
弁護士との打ち合わせ。
裁判への対応。
被災社員やご家族との話し合い。
社員への説明。
取引先への報告。
それらが何年も続きました。
最終的な解決まで約5年。
社長が後に話していた言葉が印象的でした。
「この5年間、ずっと重たかった肩が、少しだけ軽くなった」
私も経営者として、この辛さは身に染み入るものがあります。
労災保険だけでは終わらない
業務中の事故が発生すると労災保険が使われます。
しかし、それで終わりとは限りません。
会社の安全管理や安全配慮義務に問題があったと判断された場合、
従業員本人やご家族から賠償請求を受けることがあります。
これをカバーするのが
使用者賠償責任保険
です。
また、
- 死亡補償
- 後遺障害補償
- 入院補償
- お見舞金
など、従業員やご家族への補償を手厚くするのが
業務災害保険
です。
私はこの二つの保険は、
会社を守るためだけの保険ではないと思っています。
事故が起きた時に、
社員とその家族に対して会社として責任ある対応をするための保険です。
本当に怖いのは賠償金ではない
業務災害の話になると、
「いくら賠償になるのか」
という話になりがちです。
もちろんそれも大切です。
しかし私が見てきた中では、
本当に怖いのはお金だけではありません。
社員の人生が変わる。
家族の人生が変わる。
そして社長自身の人生も変わる。
事故とはそういうものです。
まとめ
経営者であれば、
売上を伸ばしたい。
利益を増やしたい。
会社を成長させたい。
そう考えるのは当然です。
しかし同時に、
事故が起きた時に社員とその家族を守れる会社でありたい
とも思うのではないでしょうか。
事故は起きないのが一番です。
ですが、どれだけ安全対策をしても事故をゼロにはできません。
だからこそ私は、
業務災害保険や使用者賠償責任保険は保険商品ではなく、
「社員の人生と会社の未来を守るための経営の備え」
だと考えています。
事故は一日です。
しかし、その影響は5年、10年と続くことがあります。
だからこそ、何も起きていない今こそ、一度備えについて考えていただきたいと思います。